日本紅斑熱とは

リケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)という病原体をもつマダニに噛まれることで発症する感染症です。2〜10日の潜伏期間を経て、急な発熱、悪寒戦慄、頭痛等が現れ、手足、手のひら、顔面等の全身に赤い発疹が現れます。
「高熱」「発疹」「マダニの刺し口」の3つの症状が特徴です。早期に診断し適切な抗菌薬で治療しなければ死亡に至ることもあります。北は青森から南は沖縄まで、全国的に感染が報告されています。

1984年、当院の馬原文彦が「日本紅斑熱」を発見しました。 当時は“日本に存在しない疾患”とされ、感染症の教科書にもそう書かれていました。

1984年5月。山で農作業をしていた女性が39.5度以上の発熱と全身に強い倦怠感を訴え来院しました。全身に紅斑(赤い発疹)が見られたので、馬原は通常の感染症に効く抗生物質を投与しましたが効き目はナシ。さらに紅斑がまったく“かゆくない”のも特徴的でした。その約2週間後に次の患者さんが来院します。同じく農家の方で、高熱と紅斑が見られます。「山でダニに咬まれた後に症状が出た」という証言を元に調べると、1人目の患者さんと同じ山に入っていたことが判明しました。

そこで馬原文彦は、野山にいるダニの一種であるツツガ虫が引き起こすツツガ虫病の疑いをもち検査を試みます。が、結果は陰性。一方で紅斑熱群リケッチア(細菌の一種)の可能性が浮上しました。ほどなくして、3人目の患者さんが来院します。41度の高熱を伴い重症でした。
そこで馬原は国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に検査を依頼します。研究所がアメリカから検査試料を取り寄せ(異例のことです)患者の抗体を調べると、紅斑熱群リケッチアであることが判明したのです。

馬原は1985年に日本感染症学会総会で「我が国初めての紅斑熱群リケッチア症」として発表し、その後「日本紅斑熱」と命名。その後も研究を継続し、招聘された数々の国際学会で発表も続けることで、この疾患概念を国際的に確立させていきました。

そうした努力が認められ、1989年には「日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究」に対して日本医師会から「日本医師会最高優功章」が贈られました。1999年に施行された感染症新法では、日本紅斑熱は第4類全数把握感染症に指定。

2012年には日本紅斑熱をはじめとするダニ媒介性疾患についての相談・検査機関として、新野町に「馬原アカリ医学研究所・ダニの資料館」を開設。全国から寄せられる症状のダニの同定や病原診断をし、また研修なども行ってまいりました(現在は、馬原ダニの資料館のみ開館)。最近でもダニ媒介性感染症に関するニュースを目にする機会が増え、日本紅斑熱による死亡例も確認されています。このことからも、第一線の医師への啓発を引き続き行う必要があります。

症状

高熱

急性期には39~40゚C以上の弛張熱が多く、悪寒戦慄を伴います。
(つつが虫病と比較して、やや高く重症感があります)

発疹

高熱とともに、手足、手掌、顔面に米粒大から小豆大の不整形の紅斑が多数出現します。
発疹は掻痒感、疼痛がないのが特徴的です。重症化した症例では、次第に出血性となります。
手掌部の紅斑は日本紅斑熱に特徴的な所見です。

刺し口

マダニに吸着された部位には「刺し口」がみられます。刺し口を見つけると臨床的な決め手になりますので、下着で覆われたところや毛髪部位も注意深く観察する必要があります。定型的には5~10mmの赤く円い硬結で、潰瘍もしくは中心部に黒い痂皮を有します。

発生状況

1984年の発見以来、年間患者発生数は10~20例でしたが、1999年4月に感染症法で第4類感染症に指定され届出義務が生じてからは、年間40例前後が報告されていました。

近年徐々に増加し,2020年420例、2021年は史上最高の486例と多発しています。

発生地域は関東以西の比較的温暖な太平洋岸沿いに多く報告されていましたが、南は沖縄県から北は青森県まで報告され、日本中どこでも遭遇しうる感染症です。

発生時期は春先から晩秋。好発時期はダニの植生や人とダニとの接触の機会などの地域特性により異なります。

予防法

日本紅斑熱はリケッチアという病原体を持ったマダニに刺されることでおこる感染症です。
野山や畑等にでかけるときは、ダニに刺されないよう次のことに注意して下さい

  • 肌を出来るだけ出さないよう長袖、長ズボン、手袋等をし、防虫スプレーを使用しましょう。
  • 帰宅後は直ぐに入浴し、ダニ類が着いていないか注意深く観察しましょう。
  • ダニが付着していたら病原体が皮下に残らないよう、医師に取り除いてもらいましょう。
  • 野外活動の後、2週間くらいの間に発熱や発疹が出た場合には、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
  • この病気の治療には良く効く抗生物質がありますが、治療が遅れると重症化し経過も長くなります。

受診の際は、「山に出かけた」、「ダニに刺された」などと、医師に告げて下さい。

馬原アカリ医学研究所

本研究所は日本紅斑熱やツツガ虫病などのリケッチア感染症はじめ、野兎病などのダニ媒介性疾患について、相談、検査の支援体制を整えるべく、設立されました。

※2021年7月31日より研究所を一時休止とさせていただいております

開設
2012年4月1日
設立者
医療法人新心会 理事長 馬原 文彦
開館日
9時から17時
※来館予定の方は事前に馬原医院まで平日にご連絡ください。
住所
徳島県阿南市新野町是国56-3
JR新野駅 馬原医院から徒歩3分
研究所員
客員研究員
角坂 照貴(顧問)、稲荷 公一、板垣 朝夫

馬原アカリ医学研究所で実施の実験室診断

ダニの同定

寄生性ダニ類の種への同定をサポート.主な対象はマダニ類とツツガムシ類.

    病原診断

    ダニ媒介性リケッチア症とその類似疾患について,血清学的診断を中心に対応
    対象疾患:日本紅斑熱(その他の紅斑熱群も含む),発疹熱,つつが虫病,野兎病,他
    診断方法:間接免疫ペルオキシダーゼ反応,野兎病菌凝集反応,Weil-Felix反応,他
    *検査依頼や研修については、相談に応じます。

    馬原ダニの資料館

    ダニの標本や生態などに関する資料、ダニによって引き起こされる病気の話など展示し、広く一般の方にも解放しています。

    開館日
    9時から17時
    ※来館予定の方は事前に馬原医院まで平日にご連絡ください。
    住所
    徳島県阿南市新野町是国56-3
    JR新野駅 馬原医院から徒歩3分